NANIMONO / 260907 / 事業構想

Nanimono

人が、自分の現在地を正確に知るための場所。言っていることではなく、行動が示していることから逆算して返す。
正本 members/hoshino/context/topics/own_business/nanimono_*.md  ・  更新 2026-09-07  ・  状態 構想(遡及検証フェーズ)
頑張るか、頑張らないか。
決めるのは、現在地を知ってからでいい。
最初の適用領域は、20代のキャリア。理由は、答え合わせが最も速く返ってくるから。

まず、事実から

9,835億円
民営職業紹介の手数料収入(2024年度)
92.0万件
常用就職の件数(2024年度)
103万円
1件あたりの平均手数料。年収の30〜35%

年間およそ1兆円が、人材紹介の手数料として企業から支払われている。この1兆円は、何の対価か。

建前はマッチングの対価である。だが実態は違う。候補者が、自分の市場価値も、最適なタイミングも知らないことへの対価である。

情報を持たない側が動けないから、間に立つ人が年収の3分の1を受け取る。そして候補者本人は、そこから1円も受け取らない。それどころか、いくらの価値を持つ人間として売買されたのかも知らない。

何が起きているのか

経験は毎日積み上がる。だが社内の給与テーブルは等級でしか動かない。
この乖離が、転職の経済的合理性の正体である。

28歳のシステムエンジニア。年収580万。同期がWeb系に移って年収を上げているのを見て焦っている。市場は今この人に620〜660万を出す。転職すれば80万上がる。悪くない話に見える。

だが、あと18ヶ月で「設計の主担当」という経験が付く。その経験は市場で+150万の値がつく。社内でその経験を積んでも、次の等級に上がるまで給与には反映されない。平均昇格年数は5.2年。

市場評価現職の給与乖離
現在620〜660万580万約60万
18ヶ月後
(設計主担当を得た場合)
770〜810万610万前後約180万
18ヶ月後
(アサインが来なかった場合)
640〜680万610万前後約50万
判定
今出れば640万で確定する。18ヶ月待てば810万で出られる。差は170万。
出るなとは言わない。出る時期を間違えるなと言っている。

誰も本当のことを言わない

構造的に言えない
  • 転職エージェントは、転職させないと1円にもならない。だから「今は動くな」とは言えない
  • キャリアコーチングは、答えを本人から引き出すのが定義。だから「あなたの市場価値は今いくらか」というデータを持っていない
  • 上司も先輩も同期も、立ち位置を測る道具を持っていない

持ち上げるか、寄り添うか。誰も測ってくれない。

なぜ今なのか

この事業は、3年前には成立しなかった。

求人票と職務経歴という非構造テキストを、大規模に構造化できるようになったから成立する。「基幹設計の主担当経験3年以上」という要件と提示レンジの対応を、数万件単位で対応づける。これはLLM以前には現実的でなかった。

そして判定の原価が落ちた。既存のキャリアコーチングは、人が10回会って50万を使い切る。我々は判定をエンジンが出すので、浮いた原価を半年後・1年後の答え合わせに回せる。競合が原価的に提供できない場所に、原価を集中させられる。

誰も定量化していない軸を、定量化する

「商社に行きたい」と言う人がいる。理由を聞くと「グローバルに活躍したいから」と答える。

嘘ではない。だが実質は違う。高年収と、社会的なステータスと、婚活市場での優位と、親の納得だ。

キャリア診断が扱うのは、やりがい・成長・価値観・強み。綺麗事の軸である。金・承認・モテ・見栄・優越感を、誰も定量化していない。実際の意思決定の大半は、そちらで動いているのに。

理由は単純だ。下品だから。企業ブランドを持つ会社は、これを口にできない。

だが定量化はできる。年収の到達分布は求人データから出る。企業の社会的認知度は調査データがある。職業別の婚活市場での有利さは、結婚相談所が実際にデータを持っている。誰もキャリア選択と接続していないだけだ。

そして目的を定量化すると、手段が入れ替え可能になる。

あなたが商社に求めているのは、年収・社会的承認・婚活市場での優位の3つです。
あなたの現在地から、商社への中途転職が成立する確率は◯%です。
同じ3つを満たす到達可能なルートが、他にA・B・Cあります。確率と到達年数はこうです。

漠然とした願望を、構成要素に分解して、届く道に置き換える。煽りはしない。フレームは一つだけである。

あなたが本当に欲しいものを、口に出さないまま人生を設計してしまうのが、一番損をする。

努力の、変換レートを出す

筋トレを「ただやれ」と言われると続かない。だが「あと1kg筋肉が増えれば、その告白は成功します」と言われたら、大半の人は頑張れる。

必要なのは根性ではない。現在地と、目標と、その間の変換レートである。ライザップの本質も体重計ではなかった。「この運動をこれだけやれば、これだけ減る」という変換レートの提示だ。

キャリアには、それがない。「成長しろ」「市場価値を高めろ」とは言われるが、その努力がいくらになるのかを誰も出さない。

我々が出すもの
  • この経験をあと18ヶ月積むと、市場評価が+150万になります
  • この資格を取っても、+8万にしかなりません
  • この異動を受けると、到達できる職種が3つ増えます

「頑張れ」でも「頑張らなくていい」でもない。この努力は、これだけのリターンになる。それだけを出す。決めるのは本人である。

あなたの効用関数を、あなたに見せる

人が何を重視しているかは、語りではなく選択の履歴に出る。どの会社を選び、どれを断ったか。それが複数あれば、各軸への重みが逆算できる。

ただし「あなたは年収より時間を3倍重視しています」だけでは示唆にならない。聞いても行動が変わらないからだ。重みは中間出力であって、最終出力ではない。出すのは次の3つである。

重みから出す3つ
  • 選択肢の順位づけ ── 今検討中のA社(年収+80万・残業45h)は、あなたの重みでは現状より効用が下がります
  • 心の動きとのズレ ── あなたの重みだとA社は3候補中最下位です。にもかかわらず、一番心が動いている。なぜですか
  • 最も効率的な手段 ── 時間を買うのに最も効率が良いのは転職ではなく、今の会社で等級を1つ上げることです。裁量労働に移り、実労働が平均12時間減ります

2つ目が最も強い。計算された効用と、本人が惹かれている先のズレ。ここに本当の情報がある。

そして重みが分かれば、あなたにとっての最適点が計算できる。

あなたの効用関数だと、何もしなければ、ここが最適です。
ただ、◯◯を1年やれば、効用が15%高い点に届きます。確率は40%です。

最適点を先に示すから、その上を見せても煽りにならない。

そして、選ばせない

「頑張らない」を選んでもいい。それなりの人生を選ぶことは、悪いことではない。むしろ、それに気づくと人生はかなり楽になる。ズレを抱えたまま走るのが、一番しんどい。

我々は道を示すだけで、どちらを取るかは決めない。保証するのは、その判断が正確な現在地の上でなされることだけだ。

半年後、答え合わせをする

判定した日に「6ヶ月後に何が起きていれば、この判定は当たりか」を書いて渡す。そして6ヶ月後に確認する。

体重計のないダイエットが続かないように、答え合わせのないキャリア判断は改善しない。

既存のコーチングを受けた人は、半年後に自分の判断が正しかったかを知らないまま終わる。顧客満足度92%という数字はあるが、それは面談の満足度であって、判断の正しさではない。

キャリアに、初めて体重計を持ち込む。

顧客獲得が、そのままデータ獲得になる

面談で聞くのは、本人の経験だけではない。等級制度、各等級の年収レンジ、実際の昇格年数。本人は自分の等級と自分の年収を知っている。

1人判定すれば、1社分の昇格構造が溜まる。100人で100社。

口コミサイトは年収額を持っているが、昇格構造は持っていない。エージェントは求人の提示レンジを持っているが、社内で何年で上がるかは持っていない。

そして半年後・1年後に、その人が実際にどうなったか。エージェントが持つのは転職した人のデータだけだ。残った人を追跡するインセンティブが構造的にゼロだから。つまり対照群が市場に存在しない。買えないので、自分で作るしかない。

なぜ他社にできないのか

リクルートがこれをやると、自社の紹介事業と衝突する。年収の35%を企業から受け取る事業を持ちながら、候補者に「今は動くな」「その転職は170万損だ」とは言えない。言えば自分の売上が消える。

候補者の側に立つというポジションは、送客収益を持つ企業には構造的に取れない。イノベーションのジレンマそのものだ。

そしてもう一つ。金・モテ・承認を定量化して見せることは、ブランドを持つ会社には下品すぎてできない。やりがいと成長の話しかできない。だから、この空白は埋まらないまま残っている。

どこまで行くか

キャリアは第一の適用領域にすぎない。選んだ理由は、答え合わせが最も速く返ってくるからだ。

同じ構造 ── 現在地の判定 × 選択 × 追跡による答え合わせ ── は、住まい、資産形成、学び直しにもそのまま効く。

人生の意思決定を、勘ではなくデータで判定する基盤。
それがこの事業の到達点である。

何を売らないか

判定者は、判定に賭けない。判定を売る。

一言でいえば

占いは優しい嘘をつく。
煽りは残酷な嘘をつく。
我々が出すのは、残酷な真実だ。

単位あたりの経済

単価30万円
変動費12万円面談の外注10万+追跡2万
粗利18万円/件(60%)
判定の限界費用ほぼゼロエンジンが出す。人数が増えても増えない
顧客獲得費用当面ゼロ紹介と発信。広告を打たない
SaaSの限界費用構造で、コンサルの単価を取る。
これがこの事業の経済的な正体である。

判定を作る原価は人数に比例せず、データが増えるほど質が上がるのに原価は増えない。比例して増えるのは面談だけで、そこは外注できる。

なぜ価格が下がらないのか

企業は人材紹介経由の採用に、1件あたり平均103万円を払っている。一方、候補者が実際に取りこぼしている額は、先の28歳の例で170万である。

30万払って170万を回避する。顧客のROIは5.7倍。

値下げ圧力が構造的にない。むしろ50万でもROIは3.4倍で、単価を上げる余地の側にある。そして単価は追跡率を買っている。安くすれば半年後に誰も答えなくなり、事業の本体が消える。

市場

年間の転職者300万人超
うち25〜34歳90万人規模
現在、有料のキャリア相談に30〜60万を払っている層年間数千〜1万人(既存市場30〜50億)
「コーチングは胡散臭いが、データ判定なら使う」層を含めた到達可能市場年間3万人規模=900億

参照すべきは数十億のキャリアコーチング市場ではない。年間約1兆円が支払われている人材紹介市場の、情報の非対称性そのものである。

到達の段階

判定⓪+ 月2,000円②-B売上
Y1
本人が面談・型づくり
20人600万
Y2
面談を外注化
120人3,600万
Y3
型が回る
360人3,000人1.2億
Y51,200人3万人20社12億

一人法人から始めて、外注のプロが増えるほど本数が伸びる。運転資金は要らない。調達もしない。

そして、資産が残る

Y5時点で手元にあるもの。

金では買えないもの
  • 主要1,000社の給与テーブルと昇格構造のデータベース — 本人からしか集まらない
  • 5,000件の「判定 → 実際の結果」の対応データ — 時間を要する

そして人材業界のプレイヤーは、構造的にこれを自分で作れない。残った人を追跡するインセンティブが、彼らには存在しないからだ。

技術方針:新しく生み出さない

アルゴリズムを発明しない。誰も持っていないデータを、枯れた手法に食わせる。研究開発リスクを負わないので、一人法人でも実装できる。

用途使う手法状況
効用の重み推定離散選択モデル(conditional logit)枯れている
個人データ不足の解消階層ベイズコンジョイント分析の標準
選択セットの設計コンジョイント分析商用ツールが存在する領域
経験属性の限界価格ヘドニック回帰Zestimate と同型
経路の提示状態遷移グラフ標準的なグラフ処理
テキストの構造化LLM既製

新規性は手法ではなく、(1) 組み合わせ (2) データの独自性 (3) 適用領域にある。

効用関数が占いにならないための条件

「それっぽい数字」は占いである。MBTIもレーダーチャートも、数字を出すから信じられる。効用関数の重み推定も、雑にやれば同じものになる。しかも本人は「言われてみればそう」と納得してしまう。納得されることが、逆に危険。

占いとの差は出力の見た目ではなく、推定の妥当性が検証されているかにある。

条件1:個人単位では推定できない、という事実を直視する

6軸の重みを推定するのに、1人の実際の選択履歴は多くて5〜10件。パラメータ数に対して選択数が足りない。個人単位の推定は原理的に不可能。

階層ベイズで解く。集団の重み分布を事前分布に置き、その人の選択履歴で更新する。データが少ない人は集団平均に引かれ、多い人は個人固有に寄る。まさにこの問題のために存在する手法。

条件2:選択セットを人工的に増やす

実履歴が足りないなら、仮想的な選択を聞けばいい。

A社:年収650万/残業40h/リモート不可/裁量小
B社:年収580万/残業20h/フルリモート/裁量中
どちらを選びますか。

これを10〜15問、所要10分。実履歴(Revealed)と仮想選択(Stated)の両方を取り、ズレを見る。「仮想選択では時間を重視すると答えたが、実際の選択は全部年収を取っている」── 設問が二重の役割を果たす。

条件3:予測して、外れる

占いは外れない(検証されないから)。我々は外れる。効用関数から「この人はこの選択肢を選ぶはず」を予測し、6ヶ月後の実際の選択と照合して的中率を出す。

条件4:不確実性を必ず併記する

いま潰すべき前提

設計はすべて机上である。顧客ゼロで潰せる前提が3つある。

  1. 求人票を集めて回帰を回す — 経験の値付けが成立するかは、データで検証できる
  2. 無料で数人に判定を出す — 30万を取らずに型を試す。評判リスクを負わない
  3. 遡及検証 ── 既に転職した/残った人に1〜2年前の状態を聞き、当時の判定を作って実際の結果と突き合わせる

3が本命である。6ヶ月待たずに一致率のプロトタイプが作れる。Zillowが過去の成約データでモデルを訓練するのと同じことができる。

そして遡及検証は一石三鳥になる。型の検証と、実際に発生していた機会損失額の実測(=需要の証拠)、そして転職した人は実際のオファー額を知っているため、正解ラベル付きの学習データがそのまま手に入る。

残る未検証
「30万払う人が実在するか」だけは、1人目でしか分からない。

壊れるパターン

出典:民営職業紹介事業の手数料収入・就職件数は厚生労働省「職業紹介事業報告」ベースの2024年度公表値(約9,835億円/約92.0万件/1件平均約103万円)。手数料率30〜35%は業界相場。
本ページの個別数値(28歳エンジニアの例、Y1〜Y5の到達段階、市場の到達可能規模)は、いずれも説明用の想定値であり実測値ではない。遡及検証の完了時に更新する。